NKB通信

「気配り脳」を育てろ -マナー知らずは一種の「脳障害」-

NKB通信2004年 2月1日号    取締役 研修部長  島根 敦

先日テレビで興味深い番組を見た。それは、自宅前の路地に多数のバイクを駐車され、その騒音で安眠を妨害され悩んでいる人の話である。 ついに我慢の限界を超えたその方が、対策に立ち上がる。まず、バイクを停めようとする人に勇気を奮って注意する。しかし、無視され効果なし(中には逆ギレされるケースも)。
次に「ただいま熟睡中」と大きく書いた看板を設置し、センサー付き照明で、人が来ると照らされるようにした。
照明がパッと点くので、バイクを停めた人は看板を確かに見る。
果たして効果は? なかった… 
看板は見るものの、いつも通りにエンジンをかけ、騒音を残し走り去っていく… 良心に訴えても無理なのか。
ところが、看板の「文言」を少し変えて見たところ、全員が離れた場所までバイクを押していってエンジンをかけた。ついに、安眠が取り戻されたのである。
では変更した文言とはどのようなものだったか?
それは「ただいま熟睡中。人気のないところでエンジンは…」というものだった。
「ただいま熟睡中」では、その看板を見ても、何をしてもらいたいかが分からず、エンジンをかけてしまう。
「人気のないところでエンジンは…」と書いて、はじめて「エンジンをかけないで欲しい」という住民の意図が伝わらなかったのである。
しかし、ちょっと待って欲しい。「ただいま熟睡中」とライトアップまでされた看板を見れば、「静かにして、ということだな」と「気づく」のではないか。
それが「エンジンを…」とまで言わないと気づかないのである。
言われないと気がつかない、つまり気配りがまったく出来ないのである。
ここで重要なのは、気配りをしないのでははく、気配りそのものが出来ないということである。つまり、気配りが出来る能力そのものが欠けているのである。
こういう人たちには、いくら「気配りをしろ」と言っても無理なのである。気配り自体をやろうと思ってもできないのだから。 だから、電車内での携帯・化粧・ドア付近に立ちはだかるなど、気配りができない人たちは一向意に減らないのである。
では、なぜ、気配りができない人が増えたのであろうか。
澤口俊之氏という脳科学者によると、気配り出来ない人は、一種の「脳機能障害」なのだそうである。
「障害」というと大げさかもしれないが、要するに、気配りをつかさどる部分の脳が未発達な状態なのだそうである。
人間というのは生まれた時は非常に未熟な動物であり(例えば、他の動物であれば生まれてすぐに立つことができるが、人間はすぐに立つことができない)、生まれた後に成長する部分が大きい動物である。気配り脳力も生後発達するのだそうである。
ところで、日本に生まれると日本語を喋るようになり、アメリカに生まれると英語を喋るようになるのは何故だろうか。言わずもがな、周りの人がその言語を使っているからである。
つまり、脳は周りの環境の影響を受けて発達をする。オオカミに育てられた人間が言葉を話せないのはそのためである。
実は「気配り脳」も同じだそうである。
かつての日本は一般的に大家族であり、近所のつきあいも濃厚であった。その環境下の中で育てば、自然と周囲に気を配る脳が発達したのである。 しかし、核家族化・少子化が進むにつれ、周囲の人が気を配るのを目のあたりにする機会や、子供自身が周囲に気を配る機会が減り、 その結果として脳が未発達となってしまう。 いや、「友達とのコミュニケーションがあるではないか」との意見もあるだろうが、最近では、ある年齢になればほとんどがメールである。 メールは相手の都合を考えずに何時でも送れるので、「気配り脳」の発達にはあまり役立たない。
ということで、気配り出来ないのは、「気配り脳力」が未熟なままであるのが大きな原因と言えるのではないか。
では、この脳の未発達を大人になってから発達させることできるのであろうか、それとも、もはや手遅れなのであろうか。
言語能力の場合は、大人になってからは相当難しいらしい。例えば、8才までオオカミの育てられたという子供は結局言葉を話せなかった。
もし言語能力と同じように、気配り能力が大人になってからの快復が難しいのであれば、企業員においては、そういう人を採用してはいけないということになる。
それでは、現実には大変なことなる。現状の日本の生活環境では、子供の頃に十分気配り能力が十分発達させてきた人の方が少ないと思われる。
しかし、気配り脳力をつかさどる部分の脳は、25才までは確実に成長するそうである。
つまり、この時期にまで、適切な脳への刺激を行えば十分に開発が出来ることになる。
25才までと言えば、企業では、新人から数年目の社員ということになる。
最近はコスト削減により、新人の導入教育期間も短縮されることが多いのですが、「気配り脳」を発達させる必要性からすると、ますます入社直後の育成・教育が重要となってきていると言える。
実際の当社の顧客でも年々導入教育の期間・内容を充実させている企業もあり、配属後の戦力化に大きく寄与している。
むろん、その中では「気配り脳」を鍛えるプログラムも実践している。今年も、また新人を迎える時期が来た。
御社の導入教育の中でも、「気配り脳」を鍛えるプログラムを充実されては、いかがだろうか。

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