NKB通信

今年の新入社員はいかがですか

NKB通信2004年 7月5日号    講師  長田 孔之

自宅の近所にあるファーストフード店に家族で行った時のこと。日曜日ということもあって、だいぶ混んでいました。 注文カウンターでは、3箇所でお客様のオーダーを受けていましたが、私たちが並んだ列だけは、他の2列に比べると遅々として前に進みません。
“失敗したなあ”と、家内と顔を見合わせました。家内が列の先頭を見て、“新人の子みたいよ、何か慌てていてパニック状態みたいねえ”。 どれどれと、私ものぞいてみると、たしかに緊張状態で、頬を紅潮させた高校生くらいのアルバイト女性が必死の形相で接客しています。 何かお客様から、文句を言われているようで、“すみません”を連発しているようです。
そのアルバイト女性の後ろには、店長らしき男性が寄り添うようにして、小声でアドバイスをしています。しかし、手を貸す様子はありません。 短気な家内は、“こんなに混んでいるんだから、あの人が代わってやればいいのにねえ。もっと待たされているお客様のことを考えなくちゃだめよ”と怒っています。 私も“そうだなあ”と言いながら、ふと、ある事を思い出しました。
毎年3月、4月頃は、新入社員研修を担当させていただきます。社会人への意識の切り換えとともに、挨拶などのマナー訓練も行います。 練習した後で、一人ひとりテストをします。当然、簡単な挨拶でも、皆うまくできないものです。それでも、中には流暢な敬語を使いこなし、仲間より早く合格できる受講生もいます。
“合格!見事だよ”と褒めると、“ありがとうございます”と喜んでいます。何年か前ですが、大学院卒の少々老けた(失礼)新入社員で、同じように「見事合格」を出した受講生がいました。
他の仲間たちから、期せずして拍手がおこりました。本人は照れながらも、胸を張っています。休憩時間に“たいしたもんだね”と声をかけると、“学生のときはずっと○○でアルバイトをしていました!それが役に立ったんです”と、このファーストフード店の名前を誇らしげに話してくれました
それから、早目に合格できる新入社員には、店舗などでアルバイトをしていたかどうか聞く事にしましたが、ほとんどが同じ答えが帰ってきます。そして皆、胸を張っているのです。
今の若い人はマナーがなってないとか、親の躾の問題だとか言われます。また、ファーストフード店などのアルバイト教育は、マニュアル的で、心がこもっていない等と批判も耳にします。 しかし、本人たちは、アルバイトでの経験に誇りを持っているのです。そして皆、真剣で真面目な受講態度です。真剣な人は伸びるものです。
こんな事を思い出していたら、私たちの番がきました。家内が、いらいらした様子で早口でオーダーを出しています。アルバイトの彼女は、よく聞き取れなかったのか、復唱した内容が間違っていました。“そうじゃないわよ!”、家内の口調がさらに厳しくなりました。 すると店長らしき人が、また後ろから小声でアドバイス。“申し訳ございません”彼女は泣き出しそうです。私もハラハラしてきました。 “泣いちゃだめだよ、頑張って”などと心の中で、声援を送っていました。
それからしばらくして、またこのお店に行きました。つい、“あの子はいるのかな”と目で探してしまいました。そのときは、いないようですが、あのまま続いているのか、辞めてしまったのかはわかりません。 ただ、誇りを持った若者が、もう一人誕生してくれていることを信じたい気持ちです。
今年の新入社員も、すでに入社4ヶ月目に入ってます。皆様の会社ではいかがでしょうか。順調に育っていますか? 胸を張って仕事をしている新入社員はいるでしょうか?
ドラッカーが言っています。「企業が人を育てる機能を失うことはゆゆしきこと」だと。

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